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樋口未芳子

出演日 8/18/15:00/18:00

'05年バレエコンクールin横浜コンテンポラリー部門1位。大学で舞踊を学び、バレエを軸にクロスジャンルなダンスを目指す。
撮影=近藤幸博
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18日の樋口未芳子の「月待ち」は、藤高智大という男性とのデュオ。月を待ちつつ祈りを唱えるという古来の風習から、刀鍛冶と月の精の関係を提示する作品。バレエダンサーの樋口と、役者の藤高が披露する殺陣のコントラストが印象的です。本番に向け、どんどん膨らんでくる作品だと思います。(ジョウネン)

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樋口未芳子「月待ち」
 女、続いて武士らしい人物が現れ、それぞれに印象的なソロを見せ、デュオとなり、女が去っていくという流れ。タイトルといい流れといい、かぐや姫を思わせるような作りだが、樋口に大略を聞くと、月の精が武士の刀に込めた祈りを聞き届けて去る、ということらしい。
 藤高の刀さばきや表情はシャープで美しく、樋口の動きは鋭くかつ品があった。藤高が刀を身につけるまでのゆっくりと丁寧な所作は心がこもっており、刀がとても大切にされているという以上に、この男が何か大切なことに向かっているらしいことをうかがわせるものだった。デュオで樋口が藤高に寄り添うように近づきその胸中を推し量っているような姿は、藤高が月の精である樋口の存在に気づいていないという分だけある種の切実さが感じられた。
樋口はバレエダンサーであるし、藤高は演劇をやっているというから、どちらかというと言葉や物語から動きを起こしていくような作業を行った結果の作品だと思われるが、説明的な動きを省略しすぎたのか(たとえば、単純だが、藤高が一心に祈る姿を見せてもよかったかも知れない)、抽象度を高めようとしすぎたのか、やや物語を追うことが難しくなったように思われる。すべての作品が、その背景や物語を明示する必要はないと思うが、この愛らしいおとぎ話のような作品については、それらが明らかにされた方が、安心して観ることができたように思う。
 また一方で、無駄な、というと否定的すぎるが、意味を示さない動きやシーンが少なく、動きが意味を追いかけて次々と段取りを急ぎすぎていたように思えたところがある。作品の中で、ある状態(事件の場面でも心のありようでも)をキープして、たっぷりと歌うように見せる部分があってもいいのではないか。そういうような、立ち止まってゆっくりと踊る場面を作れれば、いっそう豊潤な作品になるだろう。

# by timeofdance | 2007-08-16 01:08 | 樋口未芳子  

垣尾 優

出演日 8/19/14:00/17:00

殴り合いという究極のコンタクト、contact Gonzo(with七九式(塚原悠也))から編み出された、独りでの「Gonzo舞」(ゴンゾブ)
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19日の垣尾優の「GONZOBU COPPER PIPE」は、銅管をうまく使って、垣尾の独特の存在感、たたずまいを見せていく作品のようです。照明の遊びも含め、見入ってしまうような魅力があります。

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垣尾優「ダイバー」
 一見単調でつかみどころのない作品なのだが、垣尾のかぶっている野球帽のような帽子が一つの仕掛けとなっていたようだ。上体を大きく動かすせいで帽子が脱げるたびに動きが中断され、小首をかしげながら帽子を拾い、また一連の動きを始めるという繰り返しが、この作品の構成要素となっている。その中断と再開が彼の特徴的な動きを導き出し、それを脈絡なさそうに、失敗しているのか成功しているのかわからないような微妙な表情のまま流して行く。クライマックスをめざさない構成であり、淡々と最後まで同じようなことを繰り返しているように見える。
 しかし、動きの一つ一つが、非常に魅力的だ。鳩の歩みかムーンウォークを思わせる、進むことと戻ることを同時に行うような動きの繰り返しが、単にそのような動きであるだけでなく、そのように行きつ戻りつしなければならないような、心のためらいか状況の困難があるかのように思われ、何か観る者の心をささくれ立たせるような情緒を生んでいる。それが淡々と、ポーカーフェイスで進められる。
 勝手な想像かもしれないが、垣尾のダンスには、いつも居心地の悪さが感じられる。見ていて居心地が悪くなるのではなく、垣尾自身にとって(この世の中は)居心地が悪いんだろうなというふうに思いめぐらしてしまう。それは世の中というに留まらず、ダンスの中にあってもダンスしていることが居心地悪そうな、ためらいや戸惑いが感じられるから、面白いというか、たちが悪いというか。いつでも動きを止めてしまいそうな、いつ終わっても不思議ではない作り方でありながら、何とか無理にでも時間を推し進めているようなざらつきが、魅力的だ。そういう男が、それでも目の前で動いている。ダンスや、作品や、公演や、劇場というような枠組み、額縁そのものを、疑わなければならないことを思い出させるような存在である。

# by timeofdance | 2007-08-16 01:08 | 垣尾優  

由良部正美

出演日 8/11/18:00

'82年、舞踏グループ東方夜總会退会、舞踏の現在化を目指し、ソロダンサーとして海外も含め活発な公演活動を行っている。
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由良部正美は、バリ舞踊の大西由希子とのデュオ「正面の女(ひと)」(11日)。由良部さんはちょこっとだけしか出ませんが。張り舞踊独特の動きが、少しだけ出てくるのですが、その不思議な突出感には戦慄させられます。それが日常的な普通の動きの中に置かれることで、全体に違和感が浸透して、不思議な世界に。


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「正面の女(ひと)」
出演=大西由希子・由良部正美、振付=由良部正美
 バリ舞踊に魅せられて十数年という大西が、舞踏家の由良部の振付を得て披露する現代作品。
 壁にもたれている姿を見せることから始まり、バタバタと壁を叩きながら走る様子を見せる。含意としては、閉ざされた世界の中で出口を求めたり、助けを求めたりしているように思われる。そこでは、どちらかというと、行き所なく閉じこめられた力のない存在のようである。
 舞台中央に立った大西は、いかにもバリ舞踊らしく大きく強く目を見開いたり、身体の中心線に沿って両手を上下に離して中の気圧を抜くようにしたりして、何か別のものになったようである。強く「気」を感じさせる動き、表情、形で、これまでの時間の流れとは異なり、天上か地中から直結しているような別の世界から垂直に何ものかが立ち上がってきたかのような時空の変化が見られた。もちろんこれは動きとしては強いインパクトのあるもので、先に述べた力ない存在を示していたのとは対照的である。
 一つの作品の中に異なる世界を取り込むために、アーティストは様々な工夫を凝らす。バリ舞踊家である大西が、一つの作品を発表するにあたって、彼女にとっての踊りのための身体と、そうではない身体を同時に提出することは、ある種の強引さを伴うものではなかっただろうか。それを形とするための導線の役割を果たしたのが、由良部という舞踏を自由にフレーミングすることのできる存在だったのではないだろうか。
 大西の身体や動きの美しさだけでなく、民族舞踊と現代舞踊を並立させたときに、こんなにも刺激的なコントラストが生まれ、それが一つの内面の吐露であり得るということを知ることができた、刺激的な作品だった。

# by timeofdance | 2007-08-16 01:07 | 由良部正美  

佐藤玲緒奈+サイトウマコト

公演日:8/11/18:00・8/12/14:00

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佐藤玲緒奈=ソウダバレエスクールを経てワガノワバレエアカデミー留学。数々のバレエコンクールで上位入賞。'04年よりスロバキア国立バレエ団所属。

サイトウマコト=アングラ演劇を経験した後、ジャズダンス、バレエ、コンテンポラリーなど幅広いダンスを展開。指導者としても多くのコンクール受賞者をサポートしている。

佐藤玲緒奈+サイトウマコトの「一秒分の五十年」(11日、12日)は、男女の絶望的な出会いをモチーフとした、セツナイ作品です。佐藤は「ダンスの時間」初期から出てくれていますが、スロヴァキア国立バレエ団に行って、表現力が格段に増したように思います。プロのバレエダンサーを間近に見ることも珍しいと思います。なお「五十年」というのは、サイトウの「50 years」という作品を遠くベースにしていることを表しています。 (ジョウネン)

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「一秒分の50年」
出演=佐藤玲緒奈+サイトウマコト、振付=サイトウマコト
 2004年にスロヴァキア国立バレエ団の所属となった佐藤は、「ダンスの時間」スタート当初から多くのサイトウ作品を踊って、コンテンポラリー・バレエの魅力を教えてくれていたが、本作でも一層豊かになった表現力を駆使して、叙情豊かで濃密な世界を見せてくれた。
 中央の小さなスポットライトを挟んで向き合った二人が鏡のように同じ動きをする。双生児のような、存在の片割れ同士であるようだ。このシーンはラストにも再度提示されるが、それは単に作品を終息させるためのソナタ形式として選ばれたのではなく、繰り返されることによって時間が停止していることを示したように思われる。
 時間が停止するとは、永遠ということだが、この2回のシーンの間には、佐藤のソロを前面に押し出しながら、2人のコンタクト、サイトウの短いが印象的なソロと、様々な世界が繰り広げられる。
 2人のコンタクトでは、ほんの少しバタバタして流れが滞るようなところがあったように思えたのが残念だったが、動きを小さくまとめるのではなく、遠心力を使うなどダイナミックな動きを見せるのは、サイトウの真骨頂。のびやかな動きと無表情な顔つきが魅力的な佐藤のソロの背後で、それを遠望するように照明から外れた奥や隅でサイトウが微かに動いている。二者の間は隔絶されているようで、大きな時空の広がりが見られた。
 佐藤は女性バレエダンサーとしては大柄なほうだと思うが、それをよく生かしてダイナミックに世界を創ることができる。四肢をリリースして放り出したような動きがパペットのようで、感情どころか生命も吸い取られた姿が哀しみを誘う。ラストで向き合ったときの表情は直面している相手の向こう側にある本質的なものを希求しているようで、強い力があった。今後もコンテンポラリー作品を大切にして、新しい世界を拓いていってほしい。

# by timeofdance | 2007-08-16 01:05 | 佐藤玲緒奈+サイトウマコト  

片上 守

出演日 8/12/14:00・8/19/14:00/17:00・8/26/14:00

'00年からフリー。'02年DANCE EXPRESS始動。限界のない感性と硬軟自在な動きを活かして、自分自身を刻み込んで踊る。
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「月もスッポン」「だれも知らない祭」の2作品を上演します。「人とつきあうことが苦手で、つい自分の殻に閉じこもってしまうのを解き放つため、片上守の身体性以外の別の側面を出すこと、人と向き合うことで人とのつながりを感じること」そのあたりが作品のテーマだそうです。(ジョウネン)
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# by timeofdance | 2007-08-08 22:46 | 片上守